増える大卒の見習い社員

日本の勤労者の約30%が、正社員ではなく派遣社員だという。

日本企業がコスト削減に成功し、業績を改善しつつある理由の一つは、そこにあるのだろうか。

いまドイツでも似たような現象が起きている。

大学を卒業したのに、なかなか正社員として企業に勤めることができず、見習い社員としてしか働くことができない若者が増えているのだ。

ベルリン大学などが、2002年に卒業した500人の若者たちに対してアンケート調査を行ったところ、回答者の37%が、卒業後少なくとも1回は見習い社員として働いていた。

さらに2社以上の企業で見習いとして働いた若者は、15%だった。

さらに、「見習い期間中に全く給料をもらわなかった」と答えた若者は、回答者の50%にのぼっていた。

給料をもらった若者の間でも、月給の額は平均600ユーロ(約9万5000円)だった。

 ベルリン大学が2000年に同じ調査を行った時には、卒業後見習い社員として働いた若者の比率は25%だった。

つまり、正社員として仕事が見つからないので、とりあえず無給でも見習いとして働く若者が増えているのだ。

特に、経済学を専攻した学生の中で、見習いとして働いた経験を持つ若者の比率は、2000年には11%だったが、現在では58%に急増している。

ドイツでも、大学を卒業した若者が企業で正社員として職を得るのは、難しくなりつつある。

特に最近では、企業の人事担当者が、学生の実務経験を重視する傾向があるからだ。このため、学生たちは有名企業で見習いとして働くことによって、履歴書に実務経験を加えようとする。

彼らが無給でも、見習いとして働こうとするのは、そのためである。

ただし、これまでのドイツでは、見習いとして働くのは在学中であり、卒業してからではなかった。

実際、見習い社員が与えられる仕事は、単純作業であることが多く、責任のある仕事は与えられない。大学卒業後、正社員になれないので見習い社員として働くというのは、就職難の裏返しなのである。

一方企業にとっては、見習い社員は無給もしくは低賃金で働いてくれるので、労働コストを下げることにつながる。

ドイツは、社会保障費用が高いために、労働コストが世界で最も高い国の一つである。

このためドイツ労働組合連盟(DGB)は、「法律を改正して、見習い社員の雇用は、技術の習得目的に限り、期間も最高3ヶ月にするべきだ」と主張している。

この国でも、人件費節約のために派遣社員の数が急増する傾向がある。日独ともに、若者にとって正社員への道は、ますます狭き門となりそうだ。

(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞 2007年2月